ホルムズ海峡とは
ホルムズ海峡(Strait of Hormuz)は、中東のペルシャ湾(アラビア湾)とオマーン湾を結ぶ国際海峡である。北側にイラン、南側にオマーン(ムサンダム半島)とアラブ首長国連邦(UAE)が位置し、世界で最も戦略的に重要なチョークポイント(海上交通の要衝)の一つとされている。
世界の海上石油輸送の約20%、液化天然ガス(LNG)輸送の相当量がこの海峡を通過しており、ペルシャ湾岸の産油国が世界市場に原油を供給するための事実上唯一の海上ルートである。このため、ホルムズ海峡の安全な通航は国際エネルギー市場の安定に直結しており、米国第5艦隊がバーレーンに司令部を置いて常時監視を行っている。
地理的特徴
ホルムズ海峡の最も狭い地点の幅は約33km(21マイル)である。国際海事機関(IMO)が定めた航行分離帯により、入出航用にそれぞれ幅約3km(2マイル)の航路が2本設定され、その間に幅約3kmの緩衝帯が設けられている。水深は最も浅い部分でも約50〜60mあり、超大型タンカー(VLCC:積載量約200万バレル)の通航が可能である。
海峡の長さは約167kmで、イラン側の沿岸は山がちな地形が海岸まで迫っており、軍事的に防衛側が有利な地形となっている。イラン革命防衛隊は海峡沿いに対艦ミサイルや高速艇を配備しており、これがホルムズ海峡封鎖リスクとして市場に意識される要因である。また、海峡内にはイラン領のラーク島、ホルモズ島などの島嶼が点在し、イランの軍事拠点として利用されている。
なぜ世界のエネルギー安全保障の要なのか
ホルムズ海峡を通過する原油は日量約2,100万バレルに達し、これは世界の石油消費量(日量約1億バレル)の約21%に相当する。サウジアラビア、イラク、UAE、クウェート、カタール、イランの6カ国が主にこの海峡を利用して原油・LNGを輸出している。
代替輸送ルートは極めて限定的である。サウジアラビアは東西パイプライン(日量約500万バレル)で紅海側のヤンブーへ原油を送る能力を持つが、その容量はサウジの輸出量(日量約700万バレル)を大幅に下回る。UAEもフジャイラ港へのパイプライン(日量約150万バレル)を保有するが、やはり全量を迂回させることは不可能である。イラク、クウェート、カタールには実質的な代替ルートがなく、ホルムズ海峡が封鎖された場合、世界の原油供給の約15〜20%が即座に途絶する計算となる。
封鎖された場合の影響
ホルムズ海峡が封鎖された場合、最も深刻な影響を受けるのは中東原油への依存度が高いアジア諸国である。日本は原油輸入の約80%、LNG輸入の約25%をホルムズ海峡経由で調達しており、封鎖が長期化すればエネルギー供給に重大な支障が生じる。
原油価格は封鎖の発生時点で即座に1バレル150〜200ドル以上に急騰するとの試算がある。その試算通りになれば日本のガソリン価格は1リットルあたり300円を超える水準に達し、電力料金も大幅に上昇するだろう。石油備蓄は国家備蓄と民間備蓄を合わせて約200日分が確保されているが、LNGの備蓄は2〜3週間分しかなく、夏季の電力需要ピーク時に封鎖が起きた場合は計画停電のリスクが現実的となる。
経済全体への影響としては、GDP成長率の低下、企業収益の圧迫、消費者物価の上昇(コストプッシュ・インフレ)が同時に発生するスタグフレーション的な状況に陥る可能性が高い。株式市場では石油関連銘柄を除き全面安となり、特に航空、運輸、化学、電力などのセクターが大きな打撃を受ける。
2026年の状況
2026年に入り、米国とイランの軍事的緊張が急激に高まっている。イランとの紛争は1ヶ月以上にわたり継続し、2026年4月初旬にはホルムズ海峡での通行料導入報道が市場に衝撃を与えた。この報道を受けてWTI原油は1日で11%超急騰し111ドル台に達し、直近渡しのブレント原油は一時141.37ドルと2008年以来の高値を記録した。
トランプ大統領は米軍の強力な軍事行動により海峡が「自然に」再開すると述べているが、明確な解決策は示されていない。一方、イラン大統領は「戦争終結への意志」を表明する場面もあり、市場はニュースの一つひとつに大きく振れる展開が続いている。戦争保険料の上昇が原油輸送コストを増加させ、ブレント原油価格を高止まりさせる構造的要因ともなっている。
日本政府はホルムズ海峡リスクへの対応として、原油調達先の多角化(米国産シェールオイル、カナダ産原油の輸入拡大)、再生可能エネルギーの導入加速、石油備蓄の積み増しを進めている。しかし、中東依存度の劇的な低下には至っておらず、ホルムズ海峡の地政学リスクは引き続き日本経済の脆弱性として認識されている。投資家にとっては、ホルムズ海峡関連のニュースが原油先物、エネルギー株、そして円相場に与える影響を常に注視する必要がある。